このページにたどり着いたということは、あなたは「なかなか英単語が覚えられない」という気持ちでインターネットの海をぐるぐる泳いでいたのではないでしょうか。この記事では、その悩みを少しでも和らげられたらと思います。
考えてみましょう
本題に入る前に、まずは、以下の英単語の和訳を答えてみてください。
① paper
② bed
③ bag
きっと、一度は聞いたことのある英単語だと思います。それぞれ代表的な訳は①紙、②ベッド、③かばんです。では、以下の表現を和訳してみてください。
④ a paper tiger
⑤ a flower bed
⑥ a sleeping bag
①~③の英単語に別の英単語をくっつけただけの表現ですが、英語に慣れていなければ、急に意味が見えにくくなったのではないでしょうか。
今回の記事は、一つひとつの単語は何を指しているのかが分かっているのに、それが語句として表れたり文として表れたりした時に理解できなくなってしまう…という人に向けて単語の勉強のポイントをまとめてみました。
意味を覚えないで「使い方」を勉強すること
“take” を英和辞書(ランダムハウス大英和辞典 [第二版]:小学館)を参考で引くと、以下のような用例が挙げられています。
- take medicine before breakfast(朝食前に薬を飲む)
- take a picture of a baby(赤ちゃんの写真を撮る)
- take notes at a lecture(講義のノートを取る)
- Take whichever you wish.(どれでも好きな方を取りなさい)
- take a fox in a snare(キツネを罠で捕らえる)
- The flood took many families.(洪水は多くの家族の命を奪った)
- If you take 2 from 5, that leaves 3.(5から2を引けば3が残る)
- He took cold over the weekend.(彼は週末に風邪を引いた)
- take a box at the opera(オペラのボックスシートを予約する)
- The red sweater took his eye.(赤いセーターが彼の目を引いた)
とりあえず、10通り例を挙げましたが、“take” だけでも50通り以上の表記があります。
それぞれマーカーで示した部分が、それぞれ “take” の和訳例であり、多くの人々が「意味」と呼称している部分です。
多くの単語帳には、こういった日本語訳が併記されています。また、学校のテストでも「単語の意味を答えなさい」といった問題が出ます。
学生は単語帳を読んで覚えた「~を撮る」や「~を持っていく」という解答を、一様に、空欄に埋めます。皆さんが、”take” に対して「意味が多い」と感じる原因はここにあるのです。
意味は1つしかありません。あると仮定しても2つくらいのものです。英単語学習で重要なポイントは、たくさんある日本語訳に共通する法則を発見することです。1
考えてみると “take” の意味は「自分のものにする」や「取り込む」というようなルールが導き出せたはずです。このルールは、大きく外れてさえいなければ自分流のもので問題ありません。
仮に、ルールが導き出せなくても、これに納得できれば、“take” を使った表現に困らせられる機会は減るはずです。
10.で示した用例も、まずは「赤いセーターが彼の目を自分のものにした」という解釈で考え、その後で、適切な日本語訳を練り直していけばよいのです。
さらに、用例を使って学習することで “take” 意外の単語を知る機会も得られます。一度の勉強で複数の単語の使い方を学習できることから、とても要領の良い勉強方法であるといえるでしょう。
このように、英語と日本語を “A is B” の形で暗記するよりも、できる限り多くの用例からルールを導き出す学習を心がけることが重要です。そうすれば、今までに遭遇したことのないような英語表現にも対応しやすくなるからです。
また、次に紹介する練習次第では自由な英語表現を生み出せるようにもなるためです。もちろん、こういった勉強に「即効性」はなく、とても時間がかかるのですが、現存する英単語の勉強を全て丸暗記で片付ける人には(少なくとも教員時代には)出会ったことがありません。
それに、即効性があるものは忘れるのも早いです。そういう観点からも、英語を日常的に使うような人が全ての「使い方」を暗記して使っているとは思えません。たくさんの「出会いの場」を作り、何度も触れ続けている内に習得することが望ましいです。
今回は “take” を例にしましたが、これは全ての単語に当てはまります。もちろん、サッと確認する時間もあって良いと思いますが、それは移動中や試験直前で行うのが良いです。
急がば回れ。筆者は、この学習方法が最も早く効率的に「自由に英語表現できる能力」を養うと信じていますし、このような能力を身に着けた人が受験に失敗するとは思えません(もし得点できないようなことがあれば、適切に能力を測れなかった試験の方が悪い!)
使う練習をすること
用例を読んでみて、使い方をふんわりとつかめたら、完全な文でなくても良いので実際に使用する練習をします。
“read(~を読む)” を例にすると、“read a book(本を読む)” だけでなく、“read the sky(空模様を判断する)”, “read a fortune(運勢を占う)” など、語の組み合わせを変えてみたり、“a lip reading(読唇術)” のように活用を変えてみたり、自由に考えてみましょう。間違えても修正すれば良いのですから、色々と試行錯誤を繰り返してみましょう。
音を使って勉強すること
単語学習の段階で「音」の勉強は取り入れなければなりません。順を追って、その理由を説明します。
綴字を覚えなくて良くなるため
この記事を読んでいる人は、かなりの日本語能力を有しているはずなので、他人が話した内容も、そっくりそのまま書き取ることもできるはずです。
筆者の教員時代の話ですが、これを改めて体験してもらうために「今から私が話す日本語を『ひらがなで』書いてください」と指示したことがあります。
もちろん、参加してくれた子どもたち全員が「くるま」「ぼうし」「みさき」と書けていました。また「そくた」や「らぴく」のような(その場で意味を与えない限りは)存在しない語でも書けていました。
このように文字を書き取ることができたということは、音と文字との間には切っても切り離せない関係があるということです。
つまり、正確に発音できれば、正確に文字を書くこともできることになります。
ただ、英語の場合は以下のように、1つの文字に対して複数の音が結びついているものもあるので、他の言語と比べると多少鬱陶難しい点もあります。
⑦ car [kɑ́:r](くるま)
⑧ cap [kǽp](ぼうし)
⑨ cape [kéip](岬)
同じ “a” の文字に対して3つの別の音が結びついています。
英語の発音には例外も多くて最初こそは戸惑うはずですが、「“r” と組み合わせられた時」や「語末に “e” の文字が付け加えられた時」など、統一されていないと見せかけて、きちんとしたルールが備わっています(まあ、そうでなければ英語母語話者が困るわけなので当たり前なのですが)
リスニング対策に直結するため
正確に発音できなければ、音も聞こえて来るようになりません。単語の発音をきちんとするだけでリスニングができるようになるわけではありませんが、流れてくる音声(=文)は、単語と単語を組み合わせて表現されます。
一般的に、リスニングは単語だけを聞き取るよりも文や文章を聞き取る際に学習負荷がかかります。
また、リダクションと呼ばれる、音と音の連結や消失は、まずは一つひとつの音を大切にしておけば、自然と身に付いていきます。
素早く発音しようとすると、音を消したり繋げたりする方が発音効率が良いため、いわゆる「こなれた英語」と呼ばれる発音は、英語使用者との会話を繰り返す中で身に付いていきます。
いわゆる “th” や「語末の/t/」の音のような英語特有の音を大切に、日頃の単語学習に音を取り入れてください。リスニング学習についてはコチラの記事を参考にしてください。
反応速度を心がけること
発音練習と同時に、瞬時に反応するように努めてください。要するに、瞬間的に意味をつかむことを心がけます。
数学の問題であれば時間の許す限り考えて解を導き出せば良いですが、英語の場合、実際の会話の場面で音を聞いてから意味を考えているようでは手遅れです。
音は、文字とは異なり、捕まえた瞬間に手のひらをすり抜けていきますし、瞬間的に発信しなければ円滑なコミュニケーションが成立しないからです。
語源、語根、接辞を活用すること
これに関しては、少々上級者向けかもしれません。詳細は「語源・語根」の記事にて、随時、紹介していきますが、今回は “terrier”(テリア)という犬種を例に話をしてみましょう。
現在は愛玩犬としても人気のあるテリアは「土に穴を掘るもの」を意味します。元来狩猟犬として改良された犬で、畑やその周辺の地中に住んで農作物に害を与える小動物が狩りの対象だったようです。これに関係する語を以下に3つ紹介しましょう。
- terra [térə]
n. 土、大地、地球 - terrace [térəs]
n. 台地、土地、テラス - territory [térətɔ̀ːri]
n. 領土、活動の範囲
上の例から、ter(ra)には「土」や「地」を意味する要素であることが判断できます。これを知っていると、初めて見かける英単語の意味をイメージするのに役立ちます。
また、”territory” の “-torry” は「~が行われる場所」を意味しています。これが使われている英単語は以下のようなものが挙げられます。
- crematory [kríːmətɔ̀ːri]
n. 火葬場 - directory [dɪréktəri]
n. 住所人名録 - dormitory [dɔ́ːrmətɔ̀ːri]
n. 寄宿舎、寮 - factory [fǽktəri]
n. 工場 - laboratory [lǽbərətɔ̀ːri]
n. 実験室 - lavatory [lǽvətɔ̀ːri]
n. 洗面所、お手洗い - observatory [əbzə́ːrvətɔ̀ːri]
n. 観測所
さらに、“-torry” と結びついている要素を知っておけば、また新しいネットワークが広がっていきます。
cremate [krɪméɪt] という語を耳にしたことのある人は少ないかもしれませんが、この流れで crematory の意味を想像すると、なんとなく「火葬に関連する語なのかな…」というイメージが湧いてくるはずです。
語源などを活用すると、英単語に紐付いている物語を解く楽しさもありますし、世界がどんどん広がっていくような知的な面白さがあります。
どんな勉強にも言えるかもしれませんが、こうして考えながら学習したことが懐に落ちた瞬間が勉強の面白いところです。
語源ばかり勉強していても英語はできるようになりませんが、気付いた時に調べて、日頃の学習のアクセントとして利用しない手はないはずです。記憶に結びつきやすくなるはずですし、誰かに教えたくなるような楽しさがあるのではないでしょうか。
気長に構えること
一般的に、現存する英単語の数は100万語よりも多いと言われています。そのうち、生まれながらに英語を話して育った成人は、約2万語から3万語を自由に操っているとされています。
これらを一度にできるようになろうとすると心が折れてしまいますし、ましてや全てを丸暗記で片付けようなどとは思わないはずです。
少し話を変えてみましょう。筆者はポケットモンスターのファンです。ファンと言っても、熱狂的なものではなく、小学生の頃にゲームに親しんだ程度の者なのですが、そんなゲームに登場してくるキャラクター、アイテム、わざの名前などをその日の内に覚えようとしたかというと、努力して覚えたわけではなかったように思います。毎日ゲームに触れ続けていく内に覚えていました。
ポケモンを知らない人は、好きなアニメの登場人物やアイドルユニットのことを考えてみてください。きっと作品に触れ続けていく内にキャラクターのことを知ったはずですし、似たような顔のアイドルの名前だって、ライブなどを通して判別できるようになったはずです。
これは退職した後だから言えますが、筆者は、生徒の顔と名前もすぐに覚えられない不適格教員でした。しかし、学期を通して接していく内に、段々、顔と名前が一致していくようになりました。
英語の力も、触れ続けていく内に身に付くものです。もちろん、なんとなく触れ続けているだけではできるようにはならないのですが、毎日の学習に「意識」を向けて努力を重ねていれば、きっとできるようになっているはずです。
前回の学習内容を忘れてしまっても気にしないのです。また思い出すために戻れば良いのです。そうして繰り返している内に、いつの間にか身に付いているはずです。
学習する単語を制限しないこと
これは余談的ではありますが、大切なことなので最後に付しておきます。身の回りにある英単語こそ大切に学習してください。「これは試験に関係ないから要らない」という消極的な発想で勉強してはなりません。
日本の学校では、授業数の関係から(“a” や “the” を含む)約5000語程度を目安に取り扱っているのですが、これだけで日常会話はできるようになりません。この5000語の中には、日本人であれば日本語として必ず聞いたことのあるような語が入っていないからです。
むしろ、こういった語が日常会話を支えていると言っても過言ではないのですが、そう頻繁に耳にしないことなどを理由に省かれてしまっているのです。
したがって、学習対象の英単語を制限しないこと、つまり、なんでも英語にしてみることが、ひょっとすれば、日頃の英単語学習において最も大切なことなのかもしれません。
「英語ができる」の定義ですが、筆者は「自分の日本語能力と同等のことを英語でも運用できる」という意味で使います。
その意味では、私自身も、まだまだ英語ができるようになっていません。みなさんと同じ学習者の身です。
英語学習に終わりが見えなくて、中々つらい思いをされている方もいらっしゃると思いますが、その勉強中の節々に表れる英語の可愛らしい側面に目を向けてみると、これもまた、やめられない理由が分かると思います。お互いがんばりましょう。
「考えてみましょう」④~⑥の解答
④張子の虎、威張り散らす人、虚仮威し
(紙で作られたトラは怖くないですよね)
⑤花壇
(お花が育つ場所を「お花のベッド」と表現しています。では、an oyster bed は、どういうものなのでしょうか)
⑥寝袋
(「人が眠るための袋」という解釈です-ing形の記事もお楽しみに)